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大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)2315号 判決

事実

原告の主張 (一)訴外明産業株式会社の被告に対する売掛代金債務についての原告の連帯保証債務金一、三一一、五一〇円及びこれに対する昭和二七年一一月五日以降支払済まで年六分の割合による損害金について大阪地方裁判所昭和二七年(ワ)第三六二六号の確定給付判決がある。

(二)原告は、昭和三一年五月二九日、被告を代理して本件債務弁済を受領する権限ある織田譲二に金三〇〇、〇〇〇円を支払つた。

(三)原告は、昭和三一年五月二九日、被告代理人織田譲二との間に、原告が金三〇〇、〇〇〇円を支払えば、被告は本件債務の残額を免除する旨の契約を締結し、原告は右契約に基き、(二)記載の弁済をした。

(四)仮りに織田譲二に(三)記載の契約締結の代理権限なしとするも、表見代理の法理により本件債務残額免除は有効である。被告は、原告主張の(一)・(二)の事実を認め、織田譲二の本件債務残額免除の権限及び表見代理の成立を争つた。

裁判所は、織田譲二の本件債務残額免除の権限を否定した上、表見代理の成立を肯定した。

理由

よつて表見代理の主張について判断する。

織田譲二が昭和三一年五月二九日当時被告を代理して本件債権を取立てる権限を被告より与えられていたことは被告の認めるところである。

前認定の通り、織田譲二は、被告より交付を受けた被告会社代表者吉田万三郎の記名捺印のある白紙委任状(甲第二号証)の委任事項欄に、本件債権の解決に関する一切の権限と、権限なく記入したのであるが、原告本人の供述によれば、原告は、織田譲二より交付された委任状(甲第二号証)の被告会社代表者吉田万三郎名下の印影が、嘗て手形に押捺された吉田万三郎の印影と同一であると確認した上で右委任状が全部直正なものであると判断したこと、本件債権については被告は確定判決という債務名義を獲得しているのであるが、当時より原告は殆んど財産を有していなかつたので、被告は強制執行によつて原告より金三〇〇、〇〇〇円という相当額の弁済を受けることはできない状態にあつたこと、以上の状況において、原告は、織田譲二に本件債務残額免除契約締結の代理権限ありと信じて、原告の経営する太閤製毛合資会社の資金より本件金三〇〇、〇〇〇円の支払をしたこと、名古屋在住の原告は、電話によつて大阪の被告へ織田譲二の権限を照会しようと考え、被告の電話番号を調査したのであるが、調査の結果被告に電話のないことが判明し、電話による照会をすることができなかつたことを認めることができる。

以上の事実関係の下において、原告は織田譲二に本件債務残額免除契約を締結する代理権ありと信ずるについて正当の理由を有したものと判断する。

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